雪がとけたら



僕は一瞬逡巡したが、声くらいはかけようと足を踏み出した。

でもその足は、サッカーで鍛えたステップを見事に生かして、瞬間的に部室の影に僕を隠した。




あいつは笑顔だった。


あいつの笑顔の前には、見たことのない男がいた。




冷静に考えれば、部活の先輩であることはすぐにわかる。

社交的なあいつのことだから先輩と笑顔で話していても全く自然だし、あの時間帯に僕みたいに後片付けをしているのも頷ける。


でも僕の頭には、一気に熱い感覚が押し寄せた。

胸がムカムカして、拳を握りしめていないとうまく感情がセーブできない。



多分、部活の先輩だった。

先輩は、あいつより背が高かった。

あいつの隣にいるのが、凄く自然だった。



…それだけのことなのに、僕は無性にしゃくにさわった。

あいつの隣にいることができない自分が、この上なく惨めに思えた。

僕の中で矛盾が益々増大する。


あいつが向けてる笑顔。

あいつに釣り合う男。


僕の後ろを歩くあいつ。

昔から隣にいるあいつ。










…その矛盾は僕を蝕み、やがて僕の中に誤った見解を生み出した。