「本当の俺は、すげぇ汚い奴なんだ。朱音が大切で幸せになって欲しいって、そう思うのに…他の男が朱音を幸せにするなんて、考えたくもない。俺じゃ幸せになんかできないのに、わかってるのに、性懲りもなく縛り付けてしまう。俺以外の奴になんか、指一本触れさせたくない。本当は…俺が一番触れちゃいけないって、わかってるのに…」
だんだんと、西の声が苦しくなってくるのがわかった。
こいつのこんな声は初めて聞く。
…こんな本音、初めて聞く。
「…終わりにしたつもりでいたんだ、全部。あの家を出て、寮に入った日に。ここなら大学までエスカレーターだし、最低でも七年、家に帰らずにすむ。七年あれば朱音を忘れられる。朱音も、別の奴を好きになればいいって…そう思ったのに…」
西の拳に力が入るのがわかった。
「…ダメだな、俺。朱音の顔見ただけで…朱音の話しただけで…朱音で…」
はっと軽く笑った。
でも肩の震えは隠せなかった。
ゴンドラの中に射し込む夕日は、西の拳に落ちた滴に反射する。
「…ほんと…ダメだ、俺」
…ギッと観覧車が、鳴き声を上げた。



