雪がとけたら




「…俺が本読む理由も、煙草吸う理由も、背が高い理由も…全部朱音なんだ」

足元を見つめながら呟く。

「朱音、俺より3つ上でさ。どうやってもその年の差は埋まらなくて…朱音と対等に話せる様に知識つけて、大人に見られる様に煙草吸って、背が伸びる様に嫌いな牛乳死ぬほど飲んでた」

西が牛乳嫌いだなんて初耳だった。
軽く微笑んで西は続ける。

「俺の全ては、朱音だったんだ。俺がする事なす事、全部朱音に繋がってた。だから…朱音と初めて結ばれた日、もうこのまま死んでもいいと思った。初めて…死ぬほどの幸せっていうのを知った」

ゴンドラは、頂上に差し掛かっていた。
日の入り口が変わる。


「…でも」

光が動く。


「同時に、死ぬほど後悔した。俺だけじゃない…朱音にまで、罪を背負わせてしまった。この幸せが永遠に続かないことだって、当たり前の様にわかってた。それでも…止められなかった。理性が、きかなかった」



…いつかの西の言葉を思い出した。


『『いつか』が必ずくるってわかってても、どうしても溺れていく奴だっているのにさ。』



…今その言葉の、本当の意味を知る。