雪がとけたら




……………

その日もいつもの様に西の部屋にいた。

一久は今日の小テストの追試でまだ学校にいる。

西はいつもと変わらず、本に目を落としていた。



…新学期が始まって数週間。

段々と秋の色が深くなる。

僕は窓際に目をやった。


いつもあるはずの煙草と灰皿。


姿を見せなくなって、どれくらいたつだろう。




パラリと紙の擦れる音が響く。

僕は思いきって口を開いた。



「あのさ」


ページを捲る手を止め、西が僕の方を向く。



「なんで、煙草やめたの?」



…西は一瞬固まったが、すぐにいつもの笑顔で言った。


「背が伸びなくなったら困るだろ?」
「はぐらかすなよ」


僕は続けざまに言う。



西が微笑みを消した。

僕が真剣な表情だったからだ。


やがて西は、ゆっくりと口を開いた。





「…きつかったから」





しおりを挟んで、パタンと本を閉じる。



「…煙草吸うとさ、あの日の朱音が浮かぶんだ。さすがに…きつい」



西は笑ってみせたけど、その笑顔はいつもの笑顔じゃなかった。


時折見せた、寂しそうな笑顔だった。