雪がとけたら



ずっと眺めていたいという衝動を抑えて、僕は軽く深呼吸をした。

踏み入れていいか迷うほどの雰囲気に、僕はゆっくりと足を進める。

くしゃっと潰れる緑の音に、あいつは驚いて顔を上げた。

二人の目があう。


あいつは驚きを隠せずに、目を見開いていた。




…何か言うべきなのかもしれない。

でも僕には、言葉が見つからなかった。

目をそらすことも忘れたあいつに、僕はそっと傘を差し出す。

強い風に飛ばされそうでも、ギリギリの所で耐えているビニール傘。

受けとることもできないあいつの手を取り、僕は無理やりそれを持たせる。



今度は、振り払われることはなかった。



「…それだけ濡れてたら、意味ないかもだけど」

そう呟いて、傘をきちんと上に掲げさせる。

「早く寮戻れよ。…お前、夏風邪ひきやすいんだからさ」


僕はそれだけ呟いて、雨のの中を駆け出した。

傘を無くした僕は一瞬で雨に濡れて、シャツがじんわりと肌に貼り付く。

雨を吸ったスニーカーが嫌な感触を生み出していたが、そんなの気にせずに寮に掛け戻った。