……………
「あった…」
椅子を引いて机の中を覗くと、配られてそのまましまったプリントが、置き勉の教科書の上にちょこんと乗っていた。
取り出してファイルに入れ、少し濡れた鞄に突っ込む。
台風のせいで午後から休みになった学校はしんと静まりかえっていて、夕日すら存在しない教室は妙に暗く心細くさせる。
僕は急いで椅子を机の下に戻し足早に教室を出る。
薄暗い廊下はなんだか気味が悪くて、鞄の紐を握りしめてそこを走り抜けた。
…下駄箱を出ると、雨脚はさっきよりも強くなっていた。
真っ直ぐ走れば明るいけど遠回りで、裏庭から行けば暗いけど寮の裏口にすぐにつく。
一瞬逡巡したが、僕は踵を返して裏庭を選んだ。
なるべく早く寮に帰りたかったし、裏庭は暗いといっても、春には桜が咲き乱れる場所だ。
春の光景を頭に思い浮かべながら、裏庭へ続く校舎裏を急いだ。
薄暗い校舎の隙間を抜ければ、少し明るさがある裏庭に出る。
そこから真っ直ぐ突っ切ったらすぐに寮だった。
でも僕の足は、中庭に出た瞬間止まってしまった。
少しあがった息を、数回の大きな呼吸で整える。



