雪がとけたら




……………

人っ子一人いない廊下には、かわりに夕日が満ち溢れていた。

ペタペタと歩く僕の足音が妙に雰囲気に合っている。

上の階から楽器の音が途切れ途切れに聞こえた。

いつもの様に合奏じゃないので、今日の吹奏楽部は自主練なんだろう。


そんなとりとめもないことを考えながら教室に向かう足を速めた。


パカッと携帯をあける。

『先帰ってる』という西のメール。


…ほんの数分も待てねぇのかよ。


別に一緒に帰らなくても帰ったら嫌でも顔を合わせるのだけど、ちょっと鞄を取りに教室に戻るくらい、待っててくれてもいいと思う。

…マイペースだなぁ、相変わらず。

そう心のなかで呟いて、教室のドアをガラッと開けた。




「あ…」




廊下と同じ様に夕日の溢れかえった教室。


窓際の席には、文庫を手にしたあいつが座っていた。



さらっと長い髪を耳にかけ、僕の方に視線を送る。

ドキッとしながらも、戸惑いを隠せない自分がいた。



しばらくの沈黙の後、あいつは肩を落として文庫を閉じた。

しおりも何も挟んでいなかったのが気になった。