記憶 ―砂漠の花―[番外編]


俺は眠い目で、ぼーっと「容疑者」と書かれた若い男の顔写真に語りかけていた。



「ちょっと、梓。絵美がまだ帰らないのよ。電話してみるから、あんた迎えに行きなさいよ!」

「…絵美にストーカーなんて、あるわけないって…」


親というのは、子供を心配する。
それは当たり前で有り難い事だが、すぐにテレビに影響されるのはどうかと思う。



母さんが絵美に電話で怒鳴っている声が聞こえた。


俺は、時計を見上げた。


23時…


「…しょうがないなぁ…」

まぁ、いつ何が起こるか分からない。
本当に、怖い世の中だ。


テレビのキャスターは暗い話題をいくつも話していた。
殺人事件、事故、詐欺…


灰色の世界…。
狂ってる。

なぜ、世の中はこんなにも悪いニュースで溢れているんだ…。
何もない日は、ない。

俺は昔から正義感が強いらしく、世の中に対して憤りがある。


正しい世界に。
暮らしやすい世界に、

変えたい。

そんな事を思っていた。


ちっぽけな俺が…?


進路。

どの道を選ぶか、どんな職種に就くのか。
精々、俺がなれる職といえば、

警察官、弁護士、検察官。

救えるのは一部の人間だけだ。