夜。
父親が、龍生を
部屋に呼んだのは、
美音も母親も
寝静まった深夜だった。
「…まぁ、座れ。」
「うん…。」
龍生は一番近くの
椅子に腰かけた。
「…原因は、何だ?」
龍生は父親の
こういう所が好きだった。
冷静沈着、
無駄な争いは好まないし、
頭ごなしに怒鳴ったり
する事もない。
「美音が、クラスの奴に…
キス、奪われたって
聞いたから…
ついカッとなって…
気がついたら、殴ってた。」
「そうか…。」
「悪いとは思ってるよ。
殴ったのは俺だし…
謹慎も当然だと思ってる。」
すると、父親は静かに言った。
「…そうじゃないだろ?」
「え?」
「美音が、そんな目に
遭って許せない
気持ちは解った。
だけど大事なのは
お前と美音のココロだ。
俺はね、一番重要視
するのはそこだと思ってる。
…悔しかったんだろ?
大事な美音の身に
そんな事があって、
守ってやれなかった
自分も情けなくて、
怒りを、思わず
相手にぶつけた。
そうだろ?」