「はっ!上沼巡査部長殿!私に何か御用でありますか!」

私が机の合間をぬって、えっちらおっちら行き着いた先には、黒い漆塗りの机が堂々と構えておりました。埃と黴臭い、湿気を帯びた室内で、塵一つとて見当たらないほど磨きあげられたその机は、紛れもなく権力の象徴でございました。無論、当時の私はその権力を奉り、あくまでも従順な姿勢を維持しておりました。しかしながら、その権力は陰湿な室内で寂しさを含み、当時の私でも、必死にめかし込むような一種の大見栄、強がりのようなものをその机にちらと感じていたことは確かです。

それでも、そんなことは露ほども私は口にすることなど御座いませんでした。

なぜならば、たとえ大見栄としても、その権力に媚びへつらい、極めて無抵抗に平伏すことこそが、私の忠義であり、袖に付いた星一つほどの違いに、逆らうことなど考えもしない身分差があることが、私が生きる世界では徹底されていたのです。