情報源も、権力を振り回す気力も、差し当たってなかった私には、身近にある限られた情報を整理すること、自分の足を使って情報を得ること、この二点しか出来ることはありませんでした。

そこで私は、もう充分に捜査されたであろう、邸宅周辺の聞き込みを、もう一度洗い直すことにしました。

当然のように、新たな情報は得られませんでした。

「もう何日も見ておりません。」

「親しかったわけではございませんので。」

近隣住民の返答は揃いも揃ってこのどちらかでした。

久し振りに顔を出した太陽が、もの哀しげに落ちてくる時分、私は目的地を前に生唾を飲みました。

説明するまでもないとは思いますが、長屋が立ち並ぶ住宅地の離れに、毛色が明らかに他とは違う邸宅が、私の眼前に静かに、ひっそりと構えておりました。

すでに生活臭はなく、敷地にはいくつか知った、春の七草が、終日繰り返された長雨に、へたり込んでいました。

私が玄関戸を叩くと、静寂な夕暮れに、たんたんと音が鳴り響くばかりで、夕焼けに染まったレンガ造りの壁は、不気味さに似た風体で、まるで沈黙を守っているかのようでした。