まず、私は、当然のことながら、巡査部長より渡された、文書、写真の束に目を通しました。

生い立ち、職業、所属団体、戸籍、人相と山口文殊個人の資料、出版した本から、親族、果てはその取り巻き達まで、一通り目を通している作業の中、私の手は無意識に、いや、もしかしたら意識的に、一枚の写真を前に止まりました。

その写真には厳格に眉を上げ、男にも物怖じしないだろう、女性の姿がありました。

頬は顎にかけてすらりと締まっており、一重瞼にやや非対称の眼は写真でも輝いているのがわかりました。そして、その左目の下の泣き黒子は、なんとも絶妙な位置にあるのです。

私はやや見下した立場で、中々美人もいたものだ、と思ったことを覚えています。

それは何かの悪戯か、私の潜在なる意識によるものかはわかりませんが、6月の湿気を指に感じ、資料めくる手をふと止めた、その時。


ある意味それが、私の、柊子さんとの初めての出会いだったのです。