あの日以来、オレはバイトを増やし、より忙しくする事で、隆の誘いを断り続けていた。

彼女を忘れる為に働く。そんな毎日。

オレは知らず知らずのうちに、すごい形相なっていたんだろう。

「大丈夫か? 最近のお前顔つきがキツくなってるぞ。そうとう無理してんじゃないのか?」

「…………」

こんな情けないオレを心配しないでくれ。

「春子さんの手料理食べに来いよ。美由紀の為にも来てくれよ」

「は?」
美由紀ちゃんの為って。

今思えば。オレの考えは隆に筒抜けだったんだろうな。

隆は急に話し始めた。

「美由紀に婚約の話が出たんだ」

「………」

「相手は政界の大物の息子だ。料亭のお得意様で普通は断る事は出来ない。

でも。両親もオレも美由紀の幸せを一番に願ってるんだ。

店よりもだ。

もう時間があまりない。圭吾にもし美由紀に対する気持ちが少しでもあるなら、アイツに会ってやってくれないか」

隆の顔は本当に辛そうに歪んでいた。

オレはこの時ひとつの決心を心に決めた。