「今日のすき焼き、めちゃくちゃ美味しいです。オレ、こんな良い肉食べちゃっていいのかなぁ?」

「美味しい? 気に入ってくれて良かった。圭吾さんに食べて欲しくて、今日は私が春子さんにリクエストしたのよ」

笑顔で話すキミ。
一口食べただけで、オレが21年間生きてきた中で一番美味しいお肉って分かるほど、味も食感も衝撃的だったのに、これが普通のようにしてる兄妹を見て、やっぱりオレの心は複雑だった。

そんな中、
「ほらほら。もっと食べて。ねぇ」

春子さんの笑顔はいつもの通り、太陽のような暖かさだった。

そんな中、執事の男性がリビングのドアをノックして入って来た。

「来客中にすみません。美由紀さん、金平様とのご会食ですが、明日に変更して欲しいと申し出がありまして」

「分かりました。私は大丈夫なので、そうお伝え下さい」

横目に見える美由紀ちゃんの表情は固く見えた。

「美由紀、イヤだったら…」 隆が心配そうに話掛けるが、

「大丈夫ですよ。お兄様」

言葉を被せるように強い口調で話すキミに、オレは何だか心がモヤモヤしたんだ。

イヤ。きっと。オレには分かってたんだ。キミの立場を。大学の女友達に聞くのと同じに、それはキミにもあるんだという事を。