安東隆海サイド

あれから俺は、七瀬を避け始めた。

シカトされたからではない。
あの後、櫻井先生に呼び出され、俺と七瀬が付き合っているのではないかという噂が、学校で流れ始めているという話を聞いたからだ。

何名かの生徒が、俺と七瀬が一緒に帰っているのを目撃していたようだ。

このまま学校中に噂が広まってしまえば、俺はともかく七瀬の将来が目茶苦茶になってしまう......

だから

元の教師と生徒の関係に戻ろうと、俺は思った。

七瀬を守るために......





ピンポーン。

家のインターホンがなった。

まさか......七瀬?
そんな訳ないよな......
ずっと無視してきたし......

暫く様子を見ていたが、足音がしないから、まだ部屋の前にいるのだろう。

俺は、ドアの前に行き、ほんの少しだけ、ドアを開けた。



そこにはやっぱり

七瀬がいた。



「話があるので中に入れて下さい。」

本当は、すぐに中に入れて、抱き締めてやりたかった。


でも俺は、出来るだけ冷たく

「ダメ。」
とだけ言った。


「なんで......?」
震える声で、七瀬が尋ねる。


抱き締めたい。好きだと言いたい。俺だけのものにしたい......

でも、俺はお前を守りたいんだ......


「もうお互いのプライベートに干渉するのはやめよう......教師と生徒として接していこう。」

言っている最中、俺は胸が押し潰される程、苦しかった......

そして、すぐにドアを閉めた。
七瀬の顔を一回も見ずに。

......見たら、我慢が出来なくなる......


「っ......ひっく......」

暫くして、ドアの向こうから、七瀬の泣き声が聞こえてきた。

俺はとっさに玄関まで走り、ドアノブに手をかけた。

今さら何て言うんだ?
今のは全部嘘だよ?

......諦めろ。
俺は七瀬を傷付けた。


ドアノブに手をかけたまま、俺はその場に座り込んだ。

ごめんな?七瀬......

お前に伝える事は出来なかったけど

「舞波。愛してる。」

俺の目から一筋の涙が零れた。