軽く押すと簡単に両開きの窓は開いた。
柔らかい風が部屋の中へと吹き込んでくる。

緑の清々しい香りと、少し湿気を含んだ風の匂い。

眼下には綺麗な庭園、少し視線を上げると木々に囲まれた城壁、その向こうに小さく裾野に広がる町並みが見えた。

本当に自分がいる場所は話で聞いたことしかない王宮なのだと今さらながらに実感がわいてきた。

石造りの手すりに触れる。

ここから飛び降りてしまえば、そんな考えも頭を過ったが、兄の言葉が頭をめぐって踏み出すこともできない。

優しく頬を撫でる風に堪えたはずの涙が零れた。

「どうしたらいいの……」

小さく呟いた声は夜へと向かう夕暮れに赤く染まった空に溶けていった。