リビングに入るとまっすぐ杏梨は窓に近づいた。


雨は勢い良く降っている。


「今日も送っていくから」


「いいよ 時間遅らせて電車で行く」


「杏梨、遠慮しないでいいんだ さあ、食べよう」


杏梨は窓際を離れた。



席について大きなカフェオレボウルを手にする。



ゆきちゃんの作ってくれるカフェオレは大好き。

自分ではゆきちゃんほどうまく作れない。

比率を教えて欲しいと言っても「飲みたい時は入れてあげるから」と言ってはぐらかされる。



目の前のスクランブルエッグとほうれん草のバター炒めをトーストの上に置いてパクつく杏梨。


杏梨は小柄なのに良く食べる。



「ゆきちゃん おいしいよ 作ってくれてありがとう」

口にはいった物を飲み込むとにっこり笑う。



「どういたしまして」



すっかりお皿の中身が空になると雪哉は気になった事を口にした。



「髪の毛がハネているよ 直してあげよう」


「本当?直してくれるのっ?」


「そのままじゃあまりにも寝起きですって感じだからね」


「すごいな~ カリスマ美容師のゆきちゃんにやってもらえるなんて♪」



パウダールームの丸いふかふかのイスに杏梨は座って鏡の中の雪哉を見て笑う。



ドライヤーとブラシを持ち杏梨のハネた髪を直していた。


ゆきちゃんがやるとすぐに直る。

わたしがやると10分以上かかるのに。


雪哉は杏梨の髪を直しながら安堵していた。



昨日は怖がらせてしまったが今日は大丈夫そうだ。




「さすが~」


短いながらもきれいにまとまった髪を見て嬉しそうだ。


「当然、これで食べていけるんだからね」


ゆきちゃんは肩をすくめて笑った。