「杏梨?」


何かに気づいた雪哉が近づいてきた。


「鼻が真っ赤だ それに涙の後も……」


「え……」


取り繕うと思った時には遅かった。


雪哉に抱きしめられていた。


「ゆきちゃん!」


抱きしめられて嫌な感じはなかった。


他の男の人にこんな事をされたらパニックに陥ってしまうだろう。


「貴美香さんの声を聞いて寂しくなっちゃった?」


「……うん」


シャワーを浴びてきたばかりの石鹸の爽やかな香りがまとう身体に抱きしめられたまま杏梨はそのままじっとしていた。


嫌な感じは受けはしなかったがやはり抱きしめられている感覚に、パニックには陥らないが立っているだけで精一杯だった。


「何でも言って欲しい 杏梨の力になりたいんだ」


「……うん 大丈夫だよ 久しぶりにママの声を聞いたからウルッてきちゃったの」


無意識に雪哉に寄りかかっていた。


杏梨を支える手に力が入った。


その途端、身体が凍りつき全身が震えた。