「そう言うことだから」

一色先生は、コーヒーを飲み干すと財布から千円札を取り出した。


「一色先生?」


「慎弥は、あなたを心底愛しているわよ。幸せにね」

そう言うと、千円札を机に置き身支度を始めた。

「……これからどうするんですか?」

一色先生は、コートを着ながら

「とりあえず、実家に戻るわ。あなたに負けない位、幸せになるからね」

そう言い、私にウインクをした。
温かいものが、心の中に流れ込んできた。


「私も、負けませんから」


笑顔でそう言うと、私達は固い握手をした。
一色先生は、私の前に名刺を置き


「何か悩み事が有ったら連絡してね」


無言で頷く私を見て、満足そうに喫茶店を出て行ってしまった。

私は名刺を手に取り、一色先生の前向きな気持ちに嬉しくなる。


会計を済ませ、久々に味わう清々しい心のまま病室に戻った。