私はとっさに顔を背けた。

先生は一瞬固まると、落胆の表情を見せた。

「ありがとう」

先生は私にバスタオルを渡すと、クルリと向きを変えた。


「……」


「最後に、理由だけでも教えてくれないか?妙子との事が有ったからか?」


先生の背中は今まで見た中で、1番小さくて弱々しかった。


「先生を愛しているから……」


ビクッとした後、先生の背中は小刻みに震えていた。


すぐに抱きついて

『好き』

と言いたかった。


先生は無言で玄関を開けた。

「待って!!!」

とっさに出てしまった。


言っちゃダメ。

今好きと言ったら、今までのガマンが水の泡だし、もう後戻りなど出来ない気がした。


「かっ…かさ」


私は近くに有った傘を掴み、先生に押し付けた。


「…ありがとな」


そういうと、家から出て行った。