一色先生はソファーの背もたれに軽く腰を掛け、遠くを見ながら話し始めた。


「私と慎弥は、昔恋人同士だったのよ」


恋人同士……


そっか。
それだと最近の先生の様子や、初めて一色先生が来た時の会話も理解出来るよね。

「確か……
慎弥が彼女と別れ、自暴自棄になっている頃かしら。

私はずっと慎弥が好きだったから、ここぞとばかりにアタックしたわ」


祐輔さんの奥さんとの事よね。
私は黙って一色先生の言葉を待った。


「ある日、私が飲みに誘ったの。しつこかったからかしらね。やっとOKしてくれて、舞い上がったのを覚えているわ。

そして、素敵なバーでお酒を飲んだの。
会話も余り無く、本当に慎弥がうるさく誘う私に付き合った感じよね。

その日、慎弥はベロベロに酔っ払っていたわ。情けない位にね」


聞きたくない事ばかりが、一色先生の口から飛び出してくる。

そして、衝撃的な一言が私を突き刺した。


「その日の夜、慎弥は私を抱いたわ。私達はやっと結ばれたの」


一色先生の顔は、穏やかに落ち着いて居る様に見受けられた。

しかし、その裏側には般若の面が隠れて居たなんて、未熟すぎる私には分からなかった。