一色先生はドアを閉めると、片手で鍵を閉めた。

「見たんでしょ?」

優しい言葉とは裏腹に、突き刺さるような視線に体が固まる。

先生の瞳は私を捉えたまま離さなかった。

まるでメデューサの様に、石になったのかと思う位の体の重さ。

近づいてくる一色先生に、私はジリジリと重い体を動かし後退りした。


「逃げなくても大丈夫よ。何もしやしないわ」


事実を知った今、一色先生の言葉は恐怖以外のなにものでもなかった。

私は窓際まで追いやられ、一色先生もある程度距離をとった位置で止まった。


背中には変な汗が流れ落ち、この上ない恐怖感が私を支配していた。


「一色先生……なぜこんな事を?」


震える唇から、辛うじて出てきた質問。


「なぜって?
慎弥が1番知って居るんじゃないかしら」


真咲先生が?!


どういう事なんだろう?


「新庄さん。あなた、年月を越えた苦しみを味わった事が有る?」


一色先生が何を言っているのか、良く理解出来なかった。

しかしこの事こそが、一色先生に心の闇を作らせた事は分かった。