相変わらず、一点を見つめながら話し始める純那。


「記憶って消えないもんだね」


私は横を向き、純那の方に体を向けた。


「純那……」


「タバコの匂いとか、白衣とか見るとさ…
先生との事を思い出してしまうんだ」


純那の心の穴は、思いのほか大きいんだ。

いくら埋めても、すぐに又穴があいてしまうんだね。


もうすぐ夏なのに……


純那の心は冬のままなんだ。


何を言って良いか分からなかった。

多分、私が何を言っても純那の心には届かないんじゃないかなって……


「なんて……ごめんね、柚子」


純那は笑いながら私の方を向き、ペロッと舌を出した。

そこには、いつもの純那が居たんだ。


笑顔なんだけど、どこか無理をしている。

きっと純那の瞳には、今は真咲先生しか映って居ないんだ。


なんだか、真咲先生に嫉妬しちゃうよ。


「もう、ちょっとは頼ってよね!!!」


私は怒ったふりをしながら、純那の先を歩き始めた。