「塩崎先生!!良かったらメールください」
教習中に俺に手紙を渡してくる教習生は多い。
「今、そんなこと言ってる場合か?」
手紙は受け取るけれど……
俺は心を動かされたりはしない。
この状況に、酔ったりもしない。
ちゃんとわきまえているつもり。
俺という人間そのものを好きなわけじゃないってこと。
俺が先生だから、好きになるだけのこと。
もう慣れた。
写メ撮りたいと言ってきたり、彼女がいるのかと聞いてきたり。
とても寒い日だった。
いつものように助手席に乗り込み、教習原簿をひざに乗せる。
「おいおい、お前……死ぬつもり?」
教習コースの中で良かった。
信号が赤なのに、スピードを上げる教習生。
この子の担当は初めてだが、できればもう二度と隣に座りたくない。
「すみません。これでも真剣なんです」
ブレーキをかけて、俺を見る。
頭を下げた瞬間に、ブレーキから足が離れ、また動き出す。
「こらこら。落ち着け!!」
「ごめんなさい!!」
出来の悪い教習生は嫌いじゃない。
一生懸命やっているのにうまくできない子は、応援したくなる。
初めからやる気がない奴は、俺も本気で教えたくなくなるけど。

