「へんじできなかったのはね、たくみのいうとおりだよ」

「うん」

「でもね、拓巳にきゃっかんてきに言われたらなんか・・・れいせいになったかも」

「おー」

「付き合いたくてがんばってるのに、今からこれじゃあ・・・ダメ、だよね」



妃那の声が徐々に活気を取り戻していく。

その声に、俺は安心感と、言葉に出来ない苦しさを感じた。

笑っているのに、ひきつっているような違和感を覚える。

この気持ちは・・・なんだ?



俺のそんな内心の戸惑いを知るはずもなく、

妃那はその可愛らしい顔で笑顔を見せた。

決して作りものじゃない、

ほんの少し赤くなった鼻と、細くなりすぎた瞳で。



「ありがとう、拓巳。あたしやっぱりデート行って来る」

「おう、行って来い」



妃那がおそるおそる俺から離れていく。

それは、まるで妃那と俺の距離を表しているようで、

なんとなく、その細い体をもう一度腕の中に引き込みそうになった。

妃那の腕を掴みそうになった手のひらを、ぐっと握る。

開いたその中には、空気しか入っていなかった。



「今更だけど、お疲れ様!拓巳」

「───ん」



振り返って笑う妃那の夕焼けに照らされた顔が、妙に眩しく思えた。





(「ただいまー」)
(「お邪魔しまーす!!」)
(「え?妃那お前今日うちで飯食うの?」
(「あれ?言ってなかった?  っていうかおなかすいたぁ」)
(「お前なんもしてねぇだろ」)
(「応援しすぎたの!・・・瑞樹先輩を」)
(「おい」)