通りすがりの人たちが少し引き気味に通り過ぎていく。

その視線は痛い・・・何故って、妃那が叫びながら俺の胸を叩くからだ。

(はたから見たら修羅場真っ最中に違いない)

その視線と妃那の予想外の行動に、

俺は慌ててその両手を掴み、しゃがんで顔を覗き込む。

そして不覚にも思わず戸惑ってしまった。



「・・・え?何?お前泣いてんの?」



泣いてない、と妃那の口が動くけれど掠れて声になっていない。

そんな妃那の大きな目には今にも零れ落ちそうな涙がなみなみ溢れてるわけで・・・

さすがに幼馴染なら分かる。

この涙は、計算じゃない。

(そして本物の妃那の涙に俺はめっぽう弱い)

妃那のその表情に俺は頭を掻きながら眉を下げた。



「妃那、俺が悪かったよ」

「たくみなんてきらいだもん・・・」

「うん、俺が悪かったからさ」



な?と妃那の頭をぽんぽん叩くと、妃那は「う~」と唸って俺の肩に顔を埋めた。

おいおい、これも計算か?と思わず思ってしまう俺を許して欲しい。

───いや、妃那が俺相手に計算するわけもないか。

甘いシャンプーの香りに苦笑しながら、久しぶりに本格的に甘えてきた幼馴染の頭を更に撫でる。

さすがに公共の場で抱き締めるわけにはいかない。



「ほんとはね」

「ん?」

「ほんとは、みずきせんぱいに、まだへんじしてないの」



耳元でくぐもった声で言う妃那の言葉に少なからず俺は驚く。

妃那なら、二つ返事でOKしていたと思っていたからだ。