なんだ、そんなこと?だったら問題ないじゃない!

後向きに歩きながら、あたしは拓巳ににっこりと笑いかける。

拓巳は「他にもなぁ」と言葉を続けようとしたけれど、あたしはそれを遮った。



「それよりさ、あたしとの登校あと少しかもよ?

幼稚園から今の今まで続いた十数年に終止符だよ?」



あたしは人差し指をびっと彼に突きつけた。

「寂しい」とか少しは思ってくれればいいのに、コイツは間髪開けずに口を開く。



「いーや、清々するね。

むしろ、この厄介者を引き受けてくれたとしたら、

俺は瑞樹先輩に感謝尊敬。プラス“ご愁傷さまでした”だな」



ひっどぉい!

あたしが叫んでその場に止まると、拓巳は小さく笑った。

そんな間に拓巳とあたしの距離がなくなるから、あたしは体を反転させて隣を歩く。

すると「まぁ」と拓巳が上を見上げながら呟いた。



「今日はいつもより現実感あったな」

「どういう意味よ」

「夕方の砂浜で追い駆けっこ?

雪山で遭難して体を暖めあう?

星を見ながらプロポーズ?

観覧車の最上部でファーストキス?

んなもん、いまどきやるかっつの」



大体思考がベタなんだよ。

そう言って拓巳は鼻で笑った。

た、確かにここは内陸だし、雪降るほど寒くはないし、ネオンで星は見えないけど!

(観覧車は叶えられるもん!!・・・電車2時間くらい乗れば)



「拓巳、あたしの黄金の鞄を食らいたいわけ?」

「やれるもんならやってみろ。どう見たって紺色だけどな。」

「うるっさーい!!」



クリーンヒット。

見事に拓巳の膝裏に入った鞄のせいで、拓巳の膝はがくっと折れた。

そのマヌケな体制に思わず声を上げて笑うと、拓巳はジロリとあたしを睨む。