「〜〜〜っ!もうギブ!あたしが悪かった!!」

「最初っからそう言えばいいんだよ」



思い切り構えた俺を見てさすがに冗談じゃないと分かったのか、妃那は床を叩いて限界を訴えた。

床に押さえつけていた妃那の足を解放してやると、妃那は両腕でお腹を押さえて床に転げる。

ほんの少し肩で息をした後、キッと俺を睨みつけた。



「拓巳の鬼!」

「お前がやるっつったんだろうが!!」

「遠慮くらいしなさいよ!!」

「するなっつったのもお前だろ!!」



相変わらず理不尽なことを言いやがる。

つい怒鳴り返しながら氷の解け切った麦茶を一口飲んでいると、

上半身を起こした妃那が「だって」と言葉を続けた。



「だって、こんなに腹筋キツいと思ってなかったんだもん!!」



───・・・そう。

妃那は変な声を上げていたから誤解を招いたかもしれないが、決してやましいことをしていたわけではない。

ことの始まりは数十分前。

突然ジャージ姿の妃那が飛び込んできたかと思いきや、



───『拓巳、筋トレ教えなさい!』



とまぁいつも通り高飛車に言い放ったのだった。

はぁ?という俺に、妃那はまぁこれもまたいつも通り長い長いノロケ交じりの解説をしやがって。

要するにそれをまとめれば、

瑞樹先輩のために毎日の美容メニューを変更したい、

そしてそのためにとりあえずサッカー部直伝の筋トレを知りたいということだった。



───『言っとくけど、男のメニューこなせるわけないと思うぞ?』

───『バカにしないで!あたしだって毎日筋トレやってるんだから!』



自信満々に言った妃那。

正直言って、妃那の筋トレと勝つために毎日やっている俺たちの筋トレを一緒にしないで欲しい。

呆れと少量の怒りに囚われた俺は、妃那に細かい説明をするわけもなく、無論量を減らすこともなく、そのまま妃那に教え込んだのだった。

その結果が・・・これだ。