そんなことをぼんやり考えていると、不意に天沢先輩と目が合った。

やっべ!

そう思って慌てて会釈するけど、天沢先輩はニヤリと笑うと真っ直ぐ俺の方に歩いて来て。



「日生、何俺のこと見てんの?」



なんて、頭を叩かれた。

「いや、別に・・・」とテキトーな返答をして視線を逸らす。



「先輩珍しいっすね?遅刻なんて」

「おー、今日に限って目覚まし鳴らなくてさぁ」



海斗が横から口を挟むと、天沢先輩は苦笑する。

けれどすぐに、「まぁ可愛い女の子に会えたから結果オーライかな」なんて冗談交じりに笑った。

───さっきの萩の様子。

───天沢先輩の“可愛い女の子”。

・・・いや、まさかね。

まさかそんな偶然はいくらなんでもないだろう。

頭の中に過ぎったひとつの可能性をぶんぶんと振り払う。



「で、お前はいつまでぼんやりストレッチサボってるつもりだ?」

「いたたたたたたたたっ!!」



唐突に天沢先輩に背中を押されて太もも裏に走る激痛。

自慢じゃないが、俺は体がめちゃめちゃ固い。

それを分かってて天沢先輩は背中に全体重を掛けていく。

痛いって!マジで痛いって!!



「おー、苦しめ苦しめ!」

「まだ余裕ありそうっすよー、天沢先輩」

「そうか、じゃぁ田原も乗るか?」

「お言葉に甘えて」

「おい海斗!!!」

「楽しそうなことしてんじゃねぇか」

「三上先輩悪ノリしないでください!!!」



俺が必死に止めたにも関わらず、さらに感じる体重と痛み。

いてーっつの!!!

妃那の陰謀か?

夏乃の呪いか?

海斗の嫌がらせか?



俺が何したって言うんだぁぁぁぁっ!!!





(ほんの束の間の平和にだって、俺の会話に妃那が現れないことは、ない)