「すいませーん、遅れました!」
唐突に、大声とともにフェンスのドアが開く。
その声のボリュームと、叩きつけられたフェンスの爆発音に近い轟音にグラウンド中の視線がそこに集まる。
「萩(はぎ)、また遅刻かよー!」
「わりぃわりぃ!」
チームメイトの一人が、入って来たヤツ・・・“萩”に声を掛ける。
俺たちの隣のクラスの人間で、遅刻常習犯だがその明るい性格でサッカー部のムードーメーカーをこなす、憎めないキャラだ。
案の定彼は、周りの突っ込みの言葉たちをへらへら笑いながら回避している。
「こら、萩原(はぎわら)!」
「って!」
そこに後ろから登場したのは、1つ学年が上の先輩だった。
萩同様汗をかいているから走ってきたんだろう。
けれど、その人が遅刻することはとても珍しいことで、俺と海斗は顔を見合わせた。
っていうか、そもそもなんで先輩は萩を殴ったんだ?
「お前、女の子にぶつかっておいて謝罪なしはないだろ?」
「急いでたんで」
「謝るくらいの時間はあったと思うけどな?」
「・・・すいません」
「俺に謝るなっつーの。あの子には俺が謝っといたから、また会ったらちゃんと謝れよ?」
───2人の会話から推測するに、どうやら萩が女にぶつかって謝らなかったらしい。
「そりゃ萩が悪いねぇ」と隣で海斗が呟いたけど、心底同感だ。
皆同じように思ったのか「最低だぞー!」「今すぐ謝りに行け!」「だから女にモテねぇんだよ!」なんて野次が飛ぶ。
「うるせぇよ!」
ムキになってそう叫んだ萩の目と視線が合った。
その瞬間、萩は慌てた様子で視線を逸らす。
「俺なんかしたか?」
「さぁ?したんじゃないの?」