「肌がキレイになる時間は夜の10時〜2時!

その間は寝て無くちゃ美肌は維持出来ないんだよ?睡眠侮るべからず!」

「はあ。」

「夕飯の時間は遅くなっちゃうから量少なくしよーっと。

それからストレッチして、筋トレの続きして・・・あ、今日は半身浴の日だった」



悩みが吹き飛んだ瞬間、思い切りハイテンションなようだ。

この単純さがいいところといえばいいところなんだが、いざ目の当たりにすると複雑だ。

指折り今日の美容メニューを考える妃那は俺なんて無視して鞄を手に取る。



「じゃ!あたし帰るね!」

「おばさん帰って来てんの?」

「さぁ?知らないけど・・・一人だったらまたすぐ来るね」



一瞬思い出すように首をかしげた妃那だったが、

すぐにばいばーい!と手を大きく振ってついには俺の返事を聞くことなく部屋を飛び出した。

俺の呆れと慣れを含んだ力無い笑顔に気付いているのかいないのか、

妃那はにーっこりと嫌味なくらい綺麗な笑顔を浮かべてそのまま出て行ってしまう。



台風みたいなやつ。

・・・けど、元気になってよかったって思っておくか。

そんな能天気な俺は、

妃那が明日のラブレターの目標を計算してるだなんて思いもしないわけで。

案外平和な俺もバカなのかもしれない。





そんな俺は、

妃那に転機が訪れるだなんて、

夢にも思っていないのだった───





(「やっほー!来てあげたよー」)
(「頼んでねぇよ!!」)
(「あたしがストレッチしてる間に髪ドライヤーして?時間短縮!」)
(「はぁ?」)
(「あと忘れないうち言っとくけど、明日は6時に起こして」)
(「目覚まし使え」)
(「もー、色々わがままだなぁ。拓巳は」)
(「俺のセリフだぁぁぁぁぁっ!!!!」)