「別に理由なんていらねぇだろ?」

「ふぇ?」

「だって、今までだって明確な理由もないのにお前ちゃんとがんばって来たじゃん。

そのままでよくね?」



難しく考えるなんて、妃那らしくないだろ。

そう言って、俺は柔らかく笑って妃那の頭をぐしゃぐしゃにした。



「自信満々で、計算高くて、男振り回すのが妃那で、

そんな妃那になるために“可愛いこと”は絶対条件。

お前の努力は“お前”であるために必要なことで、誰のためでもない。

理由なんていらねぇよ」



恋愛したくなったらお前はいつでも出来るだろうし。

そう言いながら、俺は親指で乱暴に妃那の涙をぬぐった。



「気づいただけ良かったって思っとけ。な?」



もう片方の目も同じように親指で拭いながら微笑む。

妃那はじーっと俺を見た後、安心しきったように笑った。

その表情も「うん!」と頷いた声も、小さい頃と変わらなかった。



「さーって!そうと決まったらさっさと筋トレ筋トレ!」

「は?」

「だって、くだらないことに悩んで時間つぶしちゃった。

10時には寝なきゃいけないのにもう時間がほとんどないし!!」



突然立ち上がったかと思えばガッツポーズをする妃那。

俺は呆れきって「10時って小学生か・・・」と呟く。

すると、「何言ってんの!」とびっと目元に人差し指を突きつけられた。