もう、可愛くて大人しい“妃那”はいらない。

だって、あたしは“あたし”のままでも、褒め称えられるべき存在でしょ?

コソコソなんて、してやらない。

いつも拓巳の前で振舞うように強気に上から言葉を発すると、更にざわめきが大きくなった。

驚いてる拓巳たちから得るのは満足感。



「日生拓巳!」



あたしは、拓巳の名前を呼んだ。

それだけで水を打ったように静かになる。

マイクの横に立つと、あたしはそこで仁王立ち。

歩く音が、ひどく響いた。



「仕方ないから、あたし、アンタに“愛されてあげる”わ!!」



そう高々と宣言した言葉は、届いたかしら?

───届いたよね。

ほんのちょっとだけ目を見開いて、それでも拓巳は笑ったから。



「バーカ!俺が“愛してやる”んだろ?」



珍しく強気な拓巳の言葉に驚くのはあたしの方。

それでもなんとなく幸せで、あたしはやっぱりへへへと笑った。





長い長いすれ違いを経て、あたしたちはいるべきところに戻ってきた。

───もう、“幼馴染”とは呼べないかもしれないけど。

それでも、

拓巳の手を、

もう離したくないって、

強く強く思った。





(こんなこと思うの拓巳だけなんだからね、ありがたく思いなさい!)