唐突に振り返った拓巳は、あたしが反応する暇もないくらいのスピードで力強くあたしを抱き締めた。

離さないとでも言うように痛いくらいの力で抱き締められる。

耳元で聞こえる拓巳の息は揺れていて、

安心したかのような、泣きそうなような、そんな拓巳らしい“拓巳”にあたしは更に安堵してしまう。

より密着するように腰に回された手があたしを引き寄せて、

もう片手で離さないと言うように拓巳の肩に頭を埋めさせられる。

拓巳の家の、優しい匂いがした。



「妃那・・・泣いていいよ」



頭に乗っていた手がぎこちなくあたしの髪を梳く。

そのあまりにストレートな言葉だって投げやりだしデリカシーないし、

あたしは思わずクスリと笑った。



「今笑うとこあったか?」

「ありすぎ!気付いてない拓巳も超、面白、・・・っいん、ですけど・・・っ!!」



話しながら、勝手に瞳から涙が零れた。

情けないくらい言葉に詰まったから、きっと拓巳にはバレバレ。

ハッと息を飲んだ拓巳の声が聞こえた。



「拓巳・・・っ、拓巳・・・!!」



拓巳のシャツをぎゅっと両手で握り締める。

拓巳はやっぱりあたしの頭を優しく撫でてくれるからなんだか余計泣けてきて。

あたしは声を上げて、子どものように泣きじゃくった。

よく知る体温があたしの体に溶け込んで、

不器用な指先も、久しぶりの匂いも、頬に触れるちょっと固い拓巳の髪の毛も、

全部全部ひどくあたしの涙腺を刺激した。



「あたし、ホントにっ・・・好き、だったんだよぉ・・・っ!!」



全力で瑞樹先輩だけを想ってた。

夢でも、

朝起きても、

授業中も、

部活中も、

ご飯食べながらも、

寝るときも、

いつもいつも瑞樹先輩でいっぱいで、

いつもいつも瑞樹先輩のために、

いつもいつも瑞樹先輩だけだった。