「ちょっと、やっぱりアンタ瑞樹のこと好きだったんじゃない!!」

「そうよ、好きだったわよ!!だけどね、最終的に迫ってきたのは瑞樹先輩の方なんだから!!」

「な・・・っ!!さっきはそんなこと言ってなかったじゃない!」

「驚きとアホらしさで声出す暇もなかったのよ!!こんな男のために自分をおとしめるのがもうバカらしくて我慢できない!!」

「人の彼氏になんてこと言うのよ!そういうところが性格悪いって言ってるの!!」

「大きなお世話よ、それより自分の男見る目見直したら!?コイツ、サイッテーよ!!」

「だって迫ったのはアンタの方『ピンポンパンポーン』



これぞ本物の修羅場。

裏庭のど真ん中で男のために怒鳴りあう麻里さんとあたし。

その空気を破ったのは、ありがちでマヌケな放送音だった。

え?と固まる私達の一瞬の間を縫って、スピーカーは続けて音を出す。



『・・・だろう?俺・・・妃那ちゃんだけだよ』



はっと全員が固まった。

その音はノイズ交じりで聞き取りにくかったけれど、その声は確かに瑞樹先輩だった。

一斉に視線が、青ざめた瑞樹先輩に向く。

───そして、そのセリフにも聞き覚えがあった。

一番最初。

最初に、瑞樹先輩があたしに語ってくれた言葉だった。



『もちろん彼女もいないよ』



そう、知らなかったんじゃない。知らされなかったの。

あたしは彼に嘘を付かれた。



『俺と 付き合う?』



あたしはなんて答えたっけ。

瑞樹先輩にばかり夢中で、自分の答えを覚えていない。



『───あたしは・・・』



ノイズの中に自分の声が零れた。