「お前、バカじゃねーの?」

「な、何よぅ!!」



あたしは拓巳のためを思って言ってあげてんのに!

その答えがバ・・・バカだなんて!!

拓巳のバカ!とあたしも言い返した。

英和辞典が入った鞄を遠心力いっぱい拓巳の膝裏に当てて、

あたしは痛がるヤツを放っておいて、ふんっと先を歩く。



何よ。何よ何よ何よ。

拓巳のバカッ!!

あたしだって本当は拓巳のこと待ってたのに、来なかったのは拓巳じゃん!

あたしがせっかく誘いなおしてあげたんじゃん。

どうしてバカとかしか言えないのかな。口が悪い。



「妃那」

「ひゃっ」



イライラと早足で歩いていたあたしの体は、不意にぐっと後ろに引っ張られた。

バランスを崩して倒れこんだけれど、背中に感じる固さと体温。

そしてあたしが上を見上げると、拓巳はあたしを覗き込む。

・・・どうやら拓巳があたしの腕を引っ張ったらしかった。



「ケーキ屋行くぞ」

「は?やーよ、だって今拓巳が断ったんじゃない」

「別に断ってはないだろ」



いーっだ、と小学生のような態度を取ったあたしを見て、苦笑しながら拓巳が前髪を捲り上げるようにあたしの頭を撫でた。