「いいなぁ、拓巳の髪はしっかりしてて」

「まぁ男だし」

「これぐらいしっかりしてたらあたしも髪巻きやすいのになぁ」



妃那が俺の頭を触るせいで妃那の髪が俺の顔に掛かる。

それを必死に避けながら「俺はお前の髪好きだけど?」と言うと、

俺の髪を触っていた手が突然頭をペシンッと叩いた。



「いてっ」

「そんな言葉であたしが喜ぶと思ったら大間違いよ!」

「・・・喜んでんじゃん」

「口答えするんじゃない!」

「いてぇっつってんだろ、この暴力女!!」



さっきの倍はあるだろう力で叩かれてさすがに耐え切れず文句を言うと、

妃那は至極楽しそうな顔で笑って俺の両頬を両手で摘んだ。

それにまた俺が痛みを訴えると、妃那の笑みが深まる。

(この女生粋のドSだと思う)



「くっそー、なんで俺褒めてんのにこんな目に合うんだよ」

「日頃の行いじゃなーい?」

「どうせお前が褒められて嬉しいのは瑞樹先輩ぐらいなんだろ?」



俺はいたって普通の会話のつもりだった。

けれど、俺の頬に両手を添えたまま、目を合わせて妃那はピタッと固まって。

予想外の反応にびっくりしたのは俺の方。

「妃那?」と名前を呼べば、

あからさまにハッと我に返った妃那はその顔に笑顔を貼り付けた。



「あ、当たり前でしょ?瑞樹先輩大好きだもん!あたし」

「───お前、なんかあった?」



妃那は笑っていたけれど、その笑顔は決して普段俺に見せる笑顔じゃなかった。

萩や和也や洋平先輩に見せるような、作られた完璧すぎる笑顔。

それに違和感を感じて問いかけると、妃那はスーッと何かが引くように表情を消した。