「先生トイレーって言うとさ、先生はトイレじゃありません!って言って」

「そういえばそんなこともあったな」

「ホントに覚えてる?」



妃那は俺をバカにしたように鼻で笑って、それから青と銀で彩られたドライヤーを俺に渡した。

一時期はやったマイナスイオンが出るという胡散臭いドライヤーを片手にベッドに腰掛けると、

妃那は当たり前のように俺の脚の間に座り込む。

その一連の動きの中に浮かれた様子が読めて、俺はとうとう諦めてドライヤーの電源となるボタンを押した。

ブオオオーッと音を立てて風を噴き出すドライヤーが、濡れた妃那の髪を捲り上げる。



「ちょっと、絡まるでしょ!」

「はいはい」

「はい、は一回!!」



プンプンと子どものように頬を膨らませて妃那が振り返る。

薄く笑ってドライヤーを持ってない手を髪に絡ませれば、すぐに強張っていた妃那の肩の力がふっと抜けた。

手のひらを上に髪を梳くと、サラサラと指の間から髪が零れ落ちていく。

この感触はもちろん俺の髪じゃ味わえなくて、

妃那の髪をいじることは初めてじゃないが、これは何度味わっても嵌る。

触ったことも、触ったであろう海斗に聞いたこともないが、

夏乃の髪もこうなんだろうか。

───俺は、ここまで絹のように柔らかく細い髪は妃那だけだと思っているんだけど。



「あーあっ、なんであたしの髪ってこんな細いんだろう」

「そうか?」



妃那が自分の髪を一房だけ掬い上げて呟く。

ちょうど俺が考えていたことと内容が被って、心が読まれたかと思い焦る。

上手い受け答えが見つからずに適当にやり過ごそうかと口を開くと、

「細いの!」と妃那が目を尖らせて振り向いた。

驚いてドライヤーを止めると、それを見計らったかのように妃那は体を持ち上げて俺の髪に手を伸ばす。