目の前の状況にあまりにも驚きすぎて、あたしは一瞬身動きが取れなくなった。



「妃那、行くぞ」

「え?え、あ、ちょ、ちょっと待ってよ・・・っ!」

「何を待つわけ?」



ほんの少し前に行った拓巳が、呆れたように振り返ってあたしの顔を覗き込む。

だ、だって・・・っ!

と、どうすればいいか分からないあたしは視線を泳がせながら言った。

上手く言葉が出てこないあたしに、拓巳は小さく笑った。



「今更何言ってんだよ」



そう、確かに今更なんだけど。

でも、いや、ちょっと待って。

この事態はあたし想像してなかったよ?



「逃げるの禁止」

「───逃がしてくれないくせに」

「当たり前だろ?」



そう言った拓巳は至極満足げで、あたしはうーっと唇を噛む。

確かに、朝「どこにでも行ってやるわよ!」と言ったのはあたしだったけど。

連れてくるのがここは・・・ないんじゃない?



「じゃぁ入るぞ」

「~~~っ、やっぱりだめっ!!無理だよ!!」



またあたしに背を向けた思わず拓巳の手を掴んで引き止めてしまう。

拓巳は目を見開きながら振り返ったけれど、

真っ赤な顔しているあたしを見て目を細めた。



「大丈夫だって。安心しろよ、手加減してやるから」

「・・・ホントに?」

「俺が嘘ついたことあったか?」

「ある!!!」

「・・・」



それは聞き捨てなりません!とあたしが断言すると、拓巳は沈黙した。

そして



「まぁ、お前の反応によっては我慢出来なくなるかもしれないけど」

「!!」



なんて言うから。

やっぱり嘘じゃん!!とあたしは泣きそうになってしまう。

だっていくら拓巳ととはいえ怖いものは怖いもん・・・