「で、返事は?」



妃那は、ほんのちょっと目を見開いて数回早く瞬きした。

それから、視線だけ右に一回、左に一回視線を泳がせて、



「好きな人、に告白されたんだから・・・答え、なんて、決まってるでしょ」



と俺の目も見ずにそう言った。

その言葉を聞いた瞬間の、頭を金槌で殴られたような衝撃は上手く言葉に出来ない。

あぁ、ショックってやつなのか。とどこか冷静な自分が頭の片隅で呟いた。

でも他の俺が、なんでショックを受けるんだ?と問いただす。

さらに別の俺は、妃那を祝福しろと騒ぎ出し、

俺の頭は何をすればいいか整理がつかず、一瞬でパニック状態になる。

結果、俺はただ固まっただけだった。



「じゃぁ、あたし今日マッサージやる日だから」



妃那は俺の反応なんて興味ないらしい。

そう言って俺の横を通り過ぎてドアに入っていった妃那は、もう俺の顔を見ることもなかった。

我に返った俺が慌てて振り返ったときは、もうドアが閉まる瞬間で。

パタンという音がむなしく静寂の中に響き渡った。



「・・・良かったな」



小さく呟くと、なぜかそれ以上声が出なくなった。

2階にある妃那の部屋の電気がつくまで俺はぼんやりそこにいて、

明かりのついたその部屋にもう一度祝福の言葉を残して、

俺も家に帰った。





(考えれば電気なんて部屋からでも見えるのに)
(だって俺と妃那の部屋は窓越しに行き来できるほど近いんだから)

(───そんなことにも気付かない俺は自分で思う以上に動揺していたらしい)
(いつもなら気付く、妃那の嘘ついたときの癖すら見付けられなかったんだから)



(開くことのないお互いのカーテンに、俺と妃那に出来た初めての壁を感じた)