けれど。
なんだか、今回は雰囲気が違って。
不意に声のトーンが低くなって、横顔が真剣になる。
「先、輩?」
もう一度名前を呼んだ。
先輩が、ゆっくりとあたしを見た。
その瞳の奥にある真剣な力に、引き込まれてしまう。
「妃那ちゃん」
ゆっくり、瑞樹先輩の口が動いた。
その瑞樹先輩の目が、声が、またあたしを捕らえた。
快速電車が轟音を立てて通り過ぎる。
あたしの髪が風に吹かれて、あたしの視界を遮った。
隙間から見える瑞樹先輩の口が、また、動く。
スローモーションのように見えたけれど、
耳に入った音は一瞬だった。
「俺、妃那ちゃんが好き」
「え───・・・」
(時間が、止まったかと思った)
(しばらくの間あたしは返事が出来なくて)
(乗る電車が来るまでの間あたしと瑞樹先輩は無言で見つめあった)