クヴェルは笑顔でボンボンショコラを受け取ると、そのまま口へと放り込みました。


「ん~今日も素晴らしく美味しいね」


『ありがとう、クヴェル。』


 そのやり取りの後、しばらく店内は静かになりました。
 ショコラはクヴェルを前にすると、緊張で上手く会話を続ける事ができないのです。その原因は、ショコラの心にありました。
 ショコラがこのお店を受け継いでから、クヴェルは毎朝ショコラの作るチョコレートを一つ買っていました。
 ショコラは毎朝現れるクヴェルに、いつしか淡い恋心を抱き始めていました。


 ──それから1ヶ月が経ったある日、クヴェルはショコラに話しかけました。
 それはいつもの「新作の味見をしに来たよ」ではありません。
 ショコラは緊張のあまり、なにも言えなくなってしまいました。
 クヴェルが言った言葉それは「君が好きなものを教えて欲しい」だした。
 ショコラは『バラが好きです』と小さく答えたあと再び黙ってしまいました。


 その沈黙に耐えられなくなったショコラは、妙なテンションでされてもいないチョコレートの話をしていました。
 そんなショコラの話を、クヴェルは笑って最後まで聞きました。
 クヴェルは帰り際「また明朝」と笑顔で去っていきました。
 クヴェルが去った店内で、ショコラは足から崩れ落ちました。
 (こんなにもドキドキしたのはいつ振りかしら?)


 それからというもの、ショコラはクヴェルと簡単なやり取り以外、ジッとショーケースを眺める事が多くなりました。