空気を瞬間冷却する始業のチャイムが鳴る。


買ったばかりのヘアピンを自慢していた子も、昨日のバラエティ番組のギャグを真似して笑いをとっていた子も、

教卓の横でプロレスごっこをしていた子も、自由な時間が終わったことを知ってモザイクが晴れていくように、わらわらと席につく。


そんななか、黒い学ランと紺のセーラー服の波をかいくぐって、一人の女子が私の右隣の席に腰をおろした。


「ゆっぴー、おはよ」


私を『ゆっぴー』などと呼ぶそいつは、もとから細い目をますます細めて笑っている。


「おはよう、アリィ」


私は嫌悪感に顔の筋肉を引きつらせながら、なんとか口角を持ち上げて挨拶を返した。


「ねえねえ、ゆっぴーってば、毎朝どうしてギリギリにしか来ないの?」


「あ、ごめん……早く起きられなくて」


「ええー、アリィいつもゆっぴーのこと待ってるんだよ。

明日から早く来て、おしゃべりしようよ」


人の気も知らないで、この女はいつも容赦ない。




こいつは有田 淑子、通称アリィ。


私が世界で一番嫌いな人間だ。