私の縄張りであるこの部屋に、アリィがやってくるという。
唯一安心できる、私だけの場所なのに。
教科書と問題集と辞書、そして蛍光灯しか乗っていないこの机は、アリィにどう映るだろう。
母が残した夏目漱石や太宰治やカフカの並んだこの本棚を、アリィはどう思うだろう。
飾りなどいっさいない殺風景なこの部屋を、私が毎日孤独と対話しているこの部屋を。……
見られたくない。
ここが、あの僭越な、はなはだしい空気に汚染されてしまうなんて耐えられない。
学校では諦めざるを得なくても、自宅でまで諦めを迫られるなんて許せない。
やはり断ろうか。
でもアリィは一度決めたらきかない。
いっそのことケンカして絶交してしまおうと、何度考えただろう。
でも、私が『イケニエ』をやめれば、またあの『かくれんぼ』が始まるに決まってる。
そうなればクラス中の女子からどれほどの恨みを買うか知れない。
いま私に向けられている無関心は、露骨な嫌悪と憎しみに変わるだろう。
だったら『アリィのイケニエになってる可哀想な子』というポジションは守っていたほうが賢明と思われる。
結局、アリィを泊まらせる以外に道はないようだ。
不幸。
私は不幸だ。
家族に恵まれていないとか、そういう問題じゃない。
根本的にマイナスにしか働かないこの思考が、不幸だ。
わざわざ自分を追いこまなくてもいいのに、もっとあっけらかんと生きることもできるだろうに、どうしてもつらいほうしか選べない。
友達が泊まりに来るんだ、楽しみだな、そう思えばいいじゃないか。
でも、できない。
どうして。……
やはり、それは相手がアリィだからだ。
めぐりめぐった思考の終着駅にはいつも、消えそうなくらい細い目で笑うアリィの憎たらしい顔があるのだった。