始業、三分前。




靴箱から教室までの道のりを、私は重たいカバンに遊ばれながらよろよろと走る。


くりくり頭の猿みたいな男子が、すばしっこく足を回転させて私を追い越していった。


必死さは変わらないはずなのに、この足はどうして彼のように動いてくれないのだろう。


背中から「あといっぷーん」と叫ぶ先生の声が聞こえてきた……正確には、あと二分半であるのだが。




私は、毎朝こんな感じで登校している。


余裕を持って登校すると、朝の閑散とした教室の中、顔だけは知っているが親しくない、

まったくしゃべったこともない人間と二人きりになって気まずい空気を持て余すことになりかねない。


なにより、朝の低血圧な体でみんなのハイテンションなおしゃべりに付き合わされるなんて耐えられない……とくに、『あいつ』のおしゃべりは。


校門で生活指導の先生に発破をかけられようがなんだろうが、自分を守るためにはギリギリで登校するのが一番なのだ。


やっとたどり着いた教室、後方の半分開いた扉へ息を切らしてすべりこむ。


セーフ。


私は窓側、前から四番目の席へ向かう。


背中が丸くなってしまうのは、教室内を蒸し器にしている若い熱気に当てられているせいだけではない。


逃げられないと分かっていても、できるだけ『あいつ』から隠れたいのだ。


机の上にカバンをおろすと、どくどくと波打つ心臓を落ち着かせるために深呼吸した。