階段を下りた先は、混雑した待合室だった。


見たことがある光景だと思ったら、ここは隣町にある総合病院の救急外来ではないか。


小学生のころ、体育の授業で腕を骨折して連れて来られたので、覚えている。


あのときは研修医に適当な診断をされて、回復に手間取ったっけ。


やはり、ここは優秀な病院ではない。


それでも夜に開いている病院はないから、みんなここにすがって集まるしかないのだ。


患者が飽和状態なので、私は開いている二階の病室に追いやられていたらしい。


待合室には子供が多く、具合が悪いためにみんなぐずっている。


薬のせいなのかぼんやりとしている頭に、癇癪を起した子供の泣き声はつらい。




頭に手を添えながら歩いて行くと、病院の中だというのに悪びれもせず携帯で話している父が薬局の前にいた。


さっきから、父は様子がおかしい。


私の父は、こんなに常識のない人間ではなかったはずだ。


そんなに冷静さを失うほどのことが、職場で起きているのだろうか。


見かねた看護師が注意して、やっと通話をやめた

……ように見えたが、もう話題に決着がついたので電話を切ったようにも見えた。


チャコールグレーのスーツを着たその中年男性は、しゃがみこんでしまうのでは、というほどひどく肩を落としている。


その姿を、私は少し離れた所から他人のふりをして眺めていた。