「早く起きろ。帰るぞ」


「お父様、もう少し休ませてあげてください。娘さん、とても痛がってらしたんですよ」


「いや、私は暇ではないんでね、すぐに会社に戻らなきゃならんのですよ」


父の横柄な物言いに看護師は戸惑って言葉をにごす。


しびれを切らし、父は私に問いかけた。


「もう何ともないんだろう?」


なんなんだ、その態度は。


訳が分からない、悔しい、私は感情に飲まれないように、こう言うしかなかった。


「……別に」


「だったら早く起きろ」


看護師の顔には困惑と私への哀れみが浮かんでいて、いたたまれなくてうつむいた。


起き上がろうとする私に手を貸しながら、看護師は毅然とした態度で父に言った。


「先生から説明は受けられたと思いますが、お帰りの前に薬局でお薬をもらってくださいね」


「薬局ってのは、どこにあるんですか」


「階段を下りて、すぐ右側です」


父は礼も言わずにきびすを返し、カーテンから出て行った。


私はゆっくりとベッドから降りて靴をはくと、看護師の彼女に二回「ごめんなさい」と頭を下げて、父を追いかけた。