「あー遅くなった。売店が混んでてなあ」
父が戻って来たのは、出て行ってかれこれ小一時間ほど経ったころだった。
白々しい嘘。
こんな時間に売店が混むわけない。
「父さん飯買って来たけど、お前も何か食うか?」
椅子に座る間際、私の方をちら、と見た。
私が泣いたことに気づいただろうに、いつもと変わらないようにふるまっている。
笑いながら、伸びたひげをなでてジョリジョリ鳴らしている。
一緒に朝食を食べていたころ、私はこの音を聞くのがとても苦痛だった。
体臭も我慢ならなかった。
消えてしまえばいいと思っていた、それなのに。
仕事を放り出して。
身なりを整えることも忘れて。
ため息をつくこともせずに。
こんな私に笑いかけてくる。
ずっと、ずっと嫌いだった、
だけど、これが、私の。……


