「しっかりして、渡辺さん!」
肩を大きく揺さぶられて目を見開くと、そこには麻生先生がいた。
「渡辺さん、どうしたの?何があったの?」
麻生先生の黒目がちな目からは大粒の涙がぼろぼろこぼれていて、小さいけれど温かい手が私の手をぎゅうぎゅう握ってくる。
「悩みがあるの?有田さんのことなの?」
麻生先生。
体育教官室までアリィを追いかけて行ったとき、五十嵐先生は関係ないと切り捨てた私のことを、麻生先生はフォローしてくれた。
「先生……」
「大丈夫よ渡辺さん。先生、渡辺さんのお話ちゃんと聞くから」
麻生先生なら分かってくれるかもしれない。
だって麻生先生はいつも一生懸命だし、私なんかのことを気にかけてくれてる。
「ゆっくりでいいから」
その場にしゃがみこんだ私の肩を抱いて、
「だから教えて。何をそんなに苦しんでるの?」
そっと寄り添ってきた、麻生先生の白いスカートが目に飛びこんできた。
その白いスカートの下、太ももにベージュのガードルのレースが浮いて見えている。
白いスーツ。
確信犯の目配せ。
甘い香水のにおい。
ざあっと鳥肌が立った。
あの白いスーツの女と同じ。
こいつも『メス』だ。
信用できない。


