何をいまさら。


鏡など見たって、そこには完璧な『ギャル』が映し出されるだけであるのに。


それでもしかたなく、渋々姿見の前に立って。




私は思わず鏡に飛びついて、映った自分の顔を手でこすった。




「やっぱり、気づいてなかったのね」




なにこれ、おかしい、嘘、絶対こんなの。


だって、私は『ギャル』になったんだ。


一晩かけて、あんなにがんばってアリィ達と、雑誌のモデルと同じようになったのに。……




「あなた、今ひどい顔してるのよ」


「嘘だ!ウソだウソだウソだ!」


そんなわけない。


目の周りが真っ黒ににじんでいて、上まぶたの真ん中には油性ペンで引いたみたいな線が一本通っていて、下まぶたにはクマみたいにインクが溜まっていて、眼球と頬はバカみたいに真っ赤で、口の端にはグロスがヨダレみたいに垂れていて、ゲジゲジの芝生に一本線を引いたみたいなそれはもう眉毛ではなくなっていて、髪の毛はまだらなヒョウみたいで、頭皮から額は赤くただれていて、スカートも綺麗に縫ったはずなのに折り返した部分が一カ所べらんと垂れ下がっていて、ハサミで切った部分からほつれた糸が大量になびいていて、そんなボロボロの短いスカートと野暮ったいままの大きめなジャケットとのバランスがあまりにも悪すぎて、ひどすぎて、あんまりで、


「これは違う!こんなの違う!」


叫んでいたら、姿見が倒れて粉々に割れていた。


「落ち着いて!現実を見なさい!あなたは自分を見失ってる!」


「違う、現実を見失ってるのは私じゃない、アリィだ!

私はアリィを助けないと!私はカナエ達みたいな『ギャル』になったんだ!

カナエ達に会わせて!アリィに会わせて!」